「未来の記憶」
はっ、と思い浮かぶその光景にいるのは、今よりも少し大人びた君で、それは記憶でも思い出でもなくて、未来の君の姿なのだと気付いたのは、
「世界が終わる日は、あの丘で夕日を見ながら最期を迎えたら、少しだけ痛く見えて、非現実感を味わえるかな」
と、君が教えてくれたからだった。
横に伸びる山々の縁を色濃く照らしながら、ゆっくりと沈んでいく夕日を見ていた君は、「最後に叶えられてよかった」と言っていた。好きな小説の物語の最後、夕日を眺めながら最期を迎える、静かに墜ちていく命が軽くて儚くていいのだと語ってくれた君の横顔が夕日に照らされて、暗い影の落ちた反面は既に死に沈んでいるようだった。
世界最期の日の君はちゃんと望みを叶えられているようで、橙色に染まった街は少しも最期らしくなかった。むしろその美しい景色を見て、明日からもがんばろうと思えるような優しさを含んでいる。
「最期の日、好きなことをできているといいな」
そんな不安を口にする、目の前の君。大丈夫、ちゃんと叶えられてるよ。でもそれは世界最期の日が来ることを示唆しているわけで。だから僕は、君の願いが叶わないことを祈ることにした。
2/12/2025, 1:58:24 PM