私の部屋の窓は、隣の家のどこかの部屋の窓と面している。
今は誰も住んでいない家らしく、カーテンも何もない、真っ暗でシンとした部屋が見えるだ。
誰か引っ越してこないかなぁと、小さい頃から思っていた。
長年の想いが届いたのか、中学生2年生になる春休み、その家の前に大きなトラックが止まっていて、人が出入りしているのが見えた。
お母さんに聞くと
「誰か越してくるみたいよ。きっと落ち着いたら挨拶に来るんじゃないかしら」
と言っていた。
どんな人が来るんだろう。歳の近い子だといいな。
私の部屋から見えるあの部屋は、誰の部屋になるんだろう。
初めての臨時にワクワクしていると、少しして、見知らぬ家族が挨拶に来た。
うちの両親と同じ年頃の夫婦と、元気いっぱいの小学生の女の子。
「隣に越してきました、高田です。こちら、よければご家族で召し上がってください」
「あら!ご丁寧にありがとうございます〜。ほら、あなたも挨拶しなさい」
「こ、こんにちは」
母に促され、恐る恐る頭を下げる。
「こんにちは。ふふっ、可愛らしい娘さんですね。家にも娘さんと同じくらいの上の子がいるのですが、人見知りで着いて来るのを嫌がってしまって……。また学校が始まったら、よければ仲良くしてやってください」
(歳の近い人見知りな子かぁ、仲良くなれるかな)
シャイな女の子を想像して、なんだか可愛らしいなぁと思った。
その日の夕方、部屋から向かいの部屋を覗いてみると、ピンク色のカーテンが取り付けられていた。
窓辺に可愛いうさぎのぬいぐるみの背も見える。
きっと妹さんか、例の人見知りの子の部屋だろう。
どうやって仲良くなったものかと頭を捻った末に、私も窓辺にぬいぐるみを置いてみることにした。
可愛いくまのぬいぐるみを、相手の部屋の方に向けて。
(気づいてくれるかな……)
と、ワクワクしていると、「夕食ができた」とお母さんに呼ばれ、慌ててリビングに駆け降りた。
***
「ふぅ、いいお湯だった〜」
夕食とお風呂を済ませ部屋に戻る。
そういえばと、窓の外を覗いてみと……。
「あっ……!」
窓越しに見えるのは、こちらに微笑む可愛いうさぎのぬいぐるみ。
「さっきは後ろを向いていたのに!」
隣の部屋の子が気づいてくれたのだと嬉しくなった。
まだあんまりよく知らないけど、あの部屋の主とはきっと仲良くだろう。
そう強く確信した日だった。
お題『窓越しに見えるのは』
7/2/2024, 6:16:19 AM