—白い恩人—
大学の同級生三人と雪山を登っていた。
雪山には危険が多いが、山頂で見える景色は美しい。何度か登った事もあるし、平気だろうと思っていた。
「みんなしっかりしろ!」
しかし吹雪の止まない悪天候に変わり、俺たちは遭難していた。途中で洞窟を見つけたのでそこで一時待機している。
皆、体温がかなり下がってきた。
「もうダメか……」
かくいう俺も危ない状態だという事は分かっていた。体が思うように動かない。
「神様、どうか助けてください……」
壁を背中に腰を下ろした。リュックにかけていた御守りを握る。
意識が遠のく直前、知らない女の姿が見えた。
(あなたは……?)
長い黒髪に白い着物姿の美しい女性。
彼女は洞窟の外に向かって、白い息をふっと吐いた。
——
目を覚ますと、病院にいた。
「みんなは⁈」
起き上がって周りを見ると、同じ病室のベッドに皆いた。もう皆、起きている。
「あの後さ、急に晴れたらしいぜ。それで救助隊が助けてくれたんだ」
前が見えなくなるくらい吹雪いていたというのに、急に晴れた事に疑問を持った。
ふと、あの綺麗な女性が頭によぎった。
「ない」
リュックに目をやると御守りがなかった。
「何が?」友達が訊いた。
「いや、何でもない」
何故か胸の奥が温かくなった。
今度お礼の品を持って、もう一度山を訪れようと思った。
お題:白い吐息
12/7/2025, 11:39:23 PM