Kotori

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「カーテン」

子どもの頃は私にも見えていた。そこに何かいるのが。

朝とても早く、目をあける。
さっきまで見ていた夢の中のざわめきがまだ耳に残っている。
横にいたはずの母親はもう起きてどこかに行っていて、空っぽの布団の上に、カーテンのすき間から光が差し込んでいる。

光のすじの中に見えるのは、銀色の魚の群れ、小さな竜や羽根がはえた奇妙な生き物たち、遊園地から逃げて来たジェットコースター、ピカピカの楽器を持った小人の楽団。
時には人の顔がふっと見え隠れする。

「だれ?」
と尋ねると、その顔は
「あたしたちは夜の中に戻るのさ。お前は目をつむってもう少しお眠り」
そうささやいて、キラキラしたちりになって消えてしまう。


あれから何年もたって、今はもう、カーテンの光の中には、なんにもいない。
いくら目をこらしても、ただ、ほこりが寂しくゆっくりと舞っている。

10/12/2022, 8:36:44 AM