「もしかして、帰りたい?」
気の進まない飲み会でそう声をかけられた時、咄嗟に首を横に振ったけれど、具合が悪そうだからなんて言って先に帰してくれた。それが最初だった。
あなたはよくよく気のつく人だった。
疲れていたり、怒っていたり、我慢していたり、隠そうとしても気遣ってくれる。
言いたいことがあるのを黙っていると、さりげなく促してくれる。
夕食のあとにデカフェのコーヒーを一杯飲むのが、このところのあなたの習慣だった。
私が持ってきたコーヒーカップを、タブレットに視線を向けたままあなたは飲んだ。
私は、いつも通りできていたろうか?
それとも、青褪めて、手は震えていたろうか?
あなたが私のことを見なくなって、何も気がつかなくなったから、自分では分からない。
喉元を押さえ、苦しげにして、驚いた顔であなたは私の方を見た。
見開かれた目に、ずいぶん久しぶりに私の顔が鮮明に映し出されている気がした。
その顔は、
#何気ないふり
3/30/2023, 10:27:10 AM