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思えば昔は、無条件に大人になれると信じていたものだ。街中をキビキビ歩くような、キッチンで良い香りと笑うような、画面の中で沢山の人を釘付けにするような、あるいは。
「どうしたの?」
「何でも無い」
頭一つ小さい体を腕で押す。へんなの、と言いつつ駆けていく細い脚を見送って。
……無条件に大人になれると思っていた。大きな体の、五体満足の体に。なにか大きなものを見据えて、立ち向かっては勝利する強い人に。
大人になれると思っていた。どんな子供だって。
小さくても弱くても、それでも時間が経つだけで。
大人になれると思っていた。
大人になれると思っていた。
子供のままで、欠片の体で、生かされるとは思わなかった。

‹子供の頃の夢›


約束をしてはいけないよと、誰が言ったのだっけ。
赤い鞠が地面を跳ねる、歌う声も楽しげに。
約束を違えてはいけないよと、誰が言ったのだっけ。
枯れた風が吹き抜ける、葉踊る音も寂しげに。
振り向く笑顔が鮮やかな、あのこは一体だれだっけ。
応える声が切り取られた、わたしは一体だれだっけ。
二人っきりの広い庭、どうして此処に居るんだっけ。

‹どこにも行かないで›

6/24/2025, 10:09:09 AM