窓際で観葉植物を育てている。熊童子という種類の多肉植物で、去年の春先にホームセンターで買ってきて以来の同居人だ。隣のアパートのおかげで丁度良く日中も日陰になる窓際で、熊童子はじわじわと背を伸ばしている。
この多肉植物というのは、いかにも水分を溜め込んだ丸いフォルムと瑞々しい緑色をしている割に水をあまり必要としないらしく、水をかけたのはこの一年と二か月ほどの間に四度しかない。それもコップ一杯分を根元にかけるだけだ。それ以外に手をかけたことはなく随分と燃費のいい育てやすい植物だと思っていた。
ところが、この熊童子がなんだか最近萎れてきているような気がする。水が足りないのか日当たりか、それとも肥料をあげたほうがいいのだろうか?
買った店で聞いてみようか。幸い、明日は日曜日だった。
「蒸れてるのかもしれませんね。最近雨が多くて蒸し暑いですから」
店員は熊童子の状態を伝えるとそう言って水はけの良い土を勧めてくれた。ついでに今のものより少しだけ大きな鉢を買い帰路についた。
本来植え替えるには少し遅い時期らしいが、このまま根腐れをおこすよりは良いだろう。植え替えた時に葉についた土を払い落す。少しだけ達成感があった。
それからは相変わらず窓際に置いたまま、たまに様子を見て、そしてごくごくたまに水をやっている。特に不満はないらしく順調に新しい葉が出てきていた。
一人満足して眺めているともう一つ熊童子に視線が注がれていることに気が付いた。
隣のアパートの向かい合った窓に猫がいる。鼻のところに黒いぶち模様のある猫だった。私とは目を合わせることなく、どうもこの鉢の熊童子を見ているらしい。
お前にも分かるかい。
などと、私は猫相手に得意げになった。
7/2/2023, 6:10:36 AM