26時のお茶会

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幸せに


深夜2時。ましらは音もなく少女の部屋に忍び込んだ。ましらの雪のように白い肌と髪、血のように赤い瞳は、この普通を体現したような部屋の中ではどう足掻いても異質だった。

ましらは音もなく少女へと近寄ると、呼吸と鼓動を確かめるように少女の胸の上に手を置いた。その仕草は嫌になるほど潔癖的で、一つの性欲も感じない。
(生きてる。当たり前か、ただ寝てるだけだもの)
だけどましらは知っている。太陽が登ってしまえば今日がこの子のXデー。「このルートを辿ったこの少女がほぼ確実に死ぬ日」であることを。

「絶対に今度こそそんなことは僕が……いや、違うか。君のことが大切で大切でたまらない「彼」が今度こそそんな結末は崩してくれるさ」
万全は期したはずだ。微々たる歪みをそこらかしこに設置した。
蝶の羽搏きが嵐を起こせるなら、僕の足掻きで君の命くらい救ってみせる。

今日が過ぎれば、流石にドクトルたちやとうさまたちが僕のしたことに気付くだろう。許されないはずだ。良くて不良品としてスクラップだろう。
分かっている、それでいい。

眠る少女の顔にかかった髪を払ってやる。呑気なその寝顔はどこまでも日の光が似合いそうな平々凡々な女の子。
ましらは少女の寝顔に吸い寄せられるように顔を寄せる。
あとほんの数センチで唇が触れる、そこまで近づき、止まる。
ふ、と自嘲しながら、額をあわせた。

「…幸せにおなり」

祈るように囁いた声が消えた瞬間、ましらの姿も闇に溶ける。

そうしてまた一人分の寝息だけが、その部屋にはあった。

3/31/2023, 11:18:50 AM