三人の道化師
太陽の光が穏やかに降り注ぐその下には、国中を巡る巡業サーカス団が夜の公演に向けて準備をしていました。
団員たちがいる無数の小さなテントからは、団員たちの活気あふれる声や道具を準備する音が聞こえてきます。
テントの少し離れたところでは、檻に入れられた動物たちが外に出され、嬉しそうに鳴く声で溢れています。
そして、公演が行われるテントの中では、このサーカス団「スターライト」の一団が今夜の公演に向けてリハーサルを行なっていました。綱渡りをする者、ジャグリングをする者、猛獣を手懐ける者……それぞれが、演目のリハーサルを行なっていたのです。
しかし、この一団は他のサーカス団と比べて、特筆すべき点がひとつだけありました。それは、団員全員が人ではないということ。今夜の公演に向けて準備する者たちは皆、人間ではありません。例えば、スポットライトを準備しているのは蜘蛛のような姿をしたものだったり、マイクチェックをしているのは頭がブラウン管テレビとなっていて、その画面に顔があるものだったりとさまざまです。
そんないろんな者たちがいるこのサーカス団。彼らを率いるのは三人の道化師兄弟です。
「エトワさん!こっちは後二時間で終わります!」
「二時間か……間に合うか?」
裏方を取り仕切っているのは、黒を基調とした道化師の服に身を包んだ青年。真っ白な肌に赤い髪に赤い瞳。右目の下には星のペイントがされていました。
彼の名前はエトワ・スターライト。このサーカス団を率いる三兄弟の末っ子です。
「エトワ。俺たちも手伝えばすぐ終わるよ。みんな、とても優秀だからね」
そう言って弟の肩に触れたのは、水色を基調とした道化師の服に身を包んだ男性。エトワと揃いの髪色と目をした青年の左目下には、涙型のペイントがされていました。
彼の名前はレイン・スターライト。このサーカス団を率いる三兄弟の長男です。
「兄ちゃん。まぁ、確かにそうなんだけどさ……それでも、間に合うと思う?」
「大丈夫。直にラルムも来るって」
「二人して何話してるの?僕も混ぜてよ〜」
会話するレインとエトワに抱きついたのは、赤を基調とした道化師の服に身を包んだ女性。二人と揃いの髪色と目をした女性はその顔に半分笑っていて、半分泣いているお面をつけていました。
「……ラルム。その僕という一人称はやめろって、前にも言ったよな?」
「お兄ちゃん。固定概念は捨てた方がいいよ。女の子だからって、僕とか俺とか使ったっていいじゃん」
「はぁ……」
「姉ちゃん。この調子で、夜の公演に間に合う?」
「間に合う間に合う!だって、準備は後ここだけだよ!みんなは存分にリハーサルをしてくれたら、僕はそれでいいんだ。ほら、残りの分は僕たちでやったら早いよ?」
「姉ちゃんまで……まぁ、二人が言うなら」
「よーし!決まりだね」
ラルムはお面を外しました。その下にあった素顔はレインとエトワの揃いの赤い髪と瞳を持ち、左目に星形のペイントがされていたのです。
「今日もみんなに素敵な夢を見せるために、頑張るよー!」
ここは、人々にとって素敵な夢を見せるサーカス団がいる場所。
道化師三兄弟を中心に、皆は夜の公演に向けて動き出すのでした。
11/26/2024, 2:52:31 AM