『イルミネーション』
ぱぁっと光の花が咲く。
無機質な車が何台も立ち並ぶ駐車場から石造りの大きなゲートを潜ると、そこはもう光に満ちあふれたワンダーランドであった。人々の楽しげな声と、今流行りのクリスマスソングがここからでも耳に届いてくる。
「ねえねえ!あたし達も早く行こ!」
君はぐい、と俺の腕を掴むと、後ろはもうなにも見えないかのようにただただ前へと駆けだしていった。
「おい、急に走り出すんじゃ…」
あんまりにも急に駆けだした彼女に小言が出かけるが、そんな言葉は散歩中の飼い主を引っ張る子犬のような彼女の顔を見て途中ですっかり消えてしまった。…まぁ、今日くらいはいいか。年に一度のイベントなのだから、とことん振り回される覚悟を決めておくとしよう。
ようやく立ち止まった彼女を横目で見ると、そんな俺の覚悟など露知らぬ彼女は、広場の中央に飾られた大きなツリーをきらきらと見詰めている。
「すっごく大きいねぇ…!お星様まで届いちゃいそう。」
そんな彼女の言葉を聞いて、初めて俺は視線を正面の大きなツリーへと向けた。どうやらこの巨大ツリーは今回のイルミネーションの目玉のひとつのようで、周りのイルミネーションよりも一層きらびやかに装飾されていた。キラキラキラキラ輝いて、イルミネーションと言うよりはまるで星がこの場にぎゅっと集まって目の前に満天の夜空があるかのようだ。
彼女は、そんな夜空に言葉を飲まれてしまったのか、最初の一言を発したきり、ただ黙ってキラキラ輝く星達を見詰めていた。いつも賑やかな彼女がここまで静かになるなんて珍しいので、つい、視線がまた彼女へと向いてしまう。少し前までマフラーに沈めていた顔は空に向かって上がり、白い息を吐き出しながらも頬を赤らめてツリーを見詰める彼女の瞳にはきらきら輝く星が映り込んでいた。
ああ、連れてきてよかった。
たったそれだけのことで満足してしまうくらい、言葉は無くても彼女の瞳は雄弁に彼女の気持ちを語っていた。
「来て良かったな。」
「…うん。」
彼女に掴まれたままだった腕を一旦外して改めて彼女の手に指を絡ませる。その瞬間ぎゅっと握り返されたぬくもりに頬を緩めながら、俺達はまた目の前のキラキラ輝く夜空を見詰めるのだった。
12/14/2024, 12:10:09 PM