ささほ(小説の冒頭しか書けない病

Open App

秋🍁

私の恋人は赤と緑の判別がつかない。それがどういう状態で、いったいどんなふうに見えて、たとえば見事な楓の紅葉をどう思ってるか、私にはわからなかった。

でも、それがわかるのだという。私と彼はゴーグルをつけて二人で楓の紅葉を見上げた。彼と交換した私の視野には灰色とも緑ともオレンジともつかぬ微妙な色合いの楓の葉が映った。正直美しくないが微妙な彩度の違いは奇妙な鮮烈さを持って私に迫った。一方彼は「わあああ」と叫んだ。そしていやに冷静な声で、

「科学技術ってすげえな。きみはこんなに綺麗なものを見ていたのか全くずるい」

私たちはそのあとゴーグルをつけたまま銀杏並木を歩いた。黄色い銀杏は私たち二人のどちらの視覚も楽しませた。私は驚くほど鮮やかに青い空を見上げ、「あなたはこんな空を見ていたのね」とつぶやいた。

9/26/2024, 10:18:22 AM