ジェーン・ドゥ

Open App

モンシロチョウ


白地の絹に黒糸で刺繍を施した。真っ白なそのドレスの裏側に、小さなプリムラの花弁を。飾られている状態では見えないそれは、ドレスの裾が広がるその瞬間だけ、光に透かされてほんのわずかその姿を現す。きっと誰も気づかない。それで良かった。私だけが知っていれば良い。

彼女は蝶のような人だった。軽やかで、光の中で美しく羽ばたく人。スボンは窮屈で嫌いなの、と言って滅多に着ることはなかった。彼女が動く度に、繊細なフレアのスカートがひらひらと舞うのを見るのが好きだった。
親友、なんて称されて、彼女の隣にいた。醜い蛾の私が彼女の隣でだけは特別になれた気がした。服を作り始めたのは彼女のためだった。彼女の美しさを引き立てるには、既存の服では足りない気がして。試行錯誤の末に創り出した店は、僅かながら評価され出した。
__ウェディングドレスは貴女のが良いの。
頬を染めてそういう彼女が愛おしくて、そして同時にどうしようもないほどに憎かった。気持ちを告げる勇気すらなかったくせに、気付かず笑う彼女を恨んだ。恋の一言すら、彼女に捧げられなかった臆病者。
ドレスなんて作ったことは無かった。それでも彼女の望むことだからと、その他の仕事も、生活も、全てを放って没頭した。私の作った花嫁衣装に袖を通してバージンロードを歩く彼女を想像すると、苦にはならなかった。

蝶のようにうつくしい人。ねぇ、貴女はきっと気づかない。衣装に象られた私の想いを。それでもいいの。それがいいの。純白の衣装に影を落とす、黒い斑点。
貴女のための衣装はこれで最後。だからどうか、どうか許して。貴女に捧げるプリムラの花。私の小さな恋を。

5/10/2026, 3:18:47 PM