うどん

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1つだけ願いが叶うとしたら何を叶えてもらいたいか。

職場の同期との飲み会も終盤、現実的な自分にはとても難題に思える話題で盛り上がっていた。

同期たちは口々に「使っても減らん財布が欲しい」「健康な身体一択やな…」「可愛い嫁さん」「俺は優しい嫁がいい」「ドラえもんがほしい」「それはもうチートやん」などと想像以上の盛り上がりをみせていた。

目立たぬよう笑いながらその場をやり過ごし、二次会は遠慮して帰宅する。

「ただいまぁ」

キングサイズのベッドの端っこで腹ばいになりながら漫画を読んでいる男が「おーおかえりぃ。なんや早かったなぁ」と笑う。

「シャワー浴びてくるわ」

「おん」


何も浮かばなかった願いだが、あの男ならなんと答えるだろうか。
自分には願いが浮かばないので、代わりにあの男の願いが叶えばいい、そんなことを思いながら急いでシャワーを済ませた。


「飲み会、楽しくなかったんか?」

ベッドに広げていた漫画は片付けられ、コーヒーを淹れて待っていてくれたようだ。

「いや?楽しかったで。ちょっと最後の話題に乗れんかったなと思って」

「…なんの話題やったん?」


…なんか神妙な顔しとるな。

「あぁすまん。紛らわしかったな」

コーヒーを貰いながら謝りつつ、先程の話題を説明した。


「なんか嫌な思いでもしたんかと思ったやないか。…願い、なぁ。んーなんやろなぁ」

大概この男も現実的なのだが、楽しそうな顔をして考えている。

「決めた。お前の願いが見つかりますように、や!」

「なんて?」

「お前の願いが、見つかりますように、や。」


途端、訳も分からず涙が込み上げそうになり、慌ててコーヒーを飲み干して、そのまま噛み付くようにキスをした。
泣くのを我慢してるのなんてお見通しや、とでもいうように、舌であやされながら背中にそっと回された手が優しくて、キスをしながら泣く、なんて器用なことをしてしまった。



この男が自分の人生にずっといたらいい、と思った。




【お題:1つだけ】

4/3/2024, 2:39:39 PM