初心者太郎

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—腕時計愛好家—

腕時計は、単に時間を確認する物ではない。
身につけている人の印象を、大きく左右する物である。

そんなところに、俺は惹かれた。

「どれにしようかな」

今日は、大事な商談がある。
俺は派手すぎず、清潔感をみせることができる、セイトーの銀色の腕時計を選んだ。

「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
「えぇ、こちらこそよろしくね。じゃあ、早速だけど——」

俺の第一印象はいつも通りパーフェクトだ。
問題は、俺の持ち込む企画。それをわかりやすく、簡潔に伝えるだけ。

「——いいね。それでやってみようか」
「ありがとうございます」

俺は丁寧に頭を下げた。

「ところでそれは、セイトーの時計かい?」

彼は、腕を見て言った。

「はい、そうです」
「やっぱり。良い腕時計をしている人間は、仕事もできるんだよ」
「ご冗談はやめてくださいよ」

彼は声を出して笑った。

「でもね、気をつけたほうがいいよ。最近は高級腕時計が盗まれる事件がよく起きているからね」
「はい、気をつけます」

俺は適当に挨拶して、部屋を出た。

「はぁ、疲れた」

仕事を終えて帰宅すると、俺はベッドに身を放り込んだ。
歩き疲れた足を、両手で揉む。

「仕事ができる、か」

自分の発した言葉に、思わず頬が緩む。
良い腕時計を身につけるようになってから、間違いなく自信がついた。

また、新しい腕時計がほしいな——。

部屋の中にあるたくさんの高級腕時計が、俺のことを見つめている。
だが、いくらあっても、その欲求が収まることはない。

もっと俺に似合うものを。
もっと価値のあるものを。

欲が体中を満たし、また俺の体を動かした。

お題:時計の針

2/7/2026, 1:32:43 AM