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※宗教の具体名が出ますが、宗教差別を意図したものでは決してございません。
加えて直接的な表現がアリ〼

「何でも希望できるのかい?! 素晴らしい制度だね、母国には無かったよ」
つくづく軽薄な男だと看守は思った。死刑囚への最後の晩餐制度なんて無くなれば良い。奴等はキリシタンでもイエスでもない。この男もその例に漏れない。
「じゃあ1962年のボルドー、ビーフカレー、それにトレジャラーがあれば良いね。他には――」
「希望は1つのみ叶えられる、嗜好品は受け付けない」
男は不意をつかれたように口を尖らせる。
「……ワオ、君もしかしてモルモンの教徒なのかな」
「規則は規則だ」
「ああ分かったムスリムだな? 彼等の信仰は厚いからね」
「これ以上の問答はしない」
男はつまらなさそうに指を弾いた。コイツの妙な癖だ。軽やかな音が狭い部屋に乾いた印象を残していく。
「では女を。まさか淑女らが嗜好品だとは言わないだろう?」
「人道に反する希望は受け付けられない」
「人道に反するだって? まさか君は、ダッチワイフと子供を作るのかい?」
それからは無視を決め込んだ。神父を連れてこいだの、サーカス団を呼べだの自分の立場を理解していないとしか思えない男に看守は辟易しており「1つに絞れ」と再度端的な指示をする。

「……じゃあ何も希望しない」
「何を――」
「俺の人生がたった1つの希望のための前身になっちまう。ビーフカレーが俺の人生だった、なんて笑えて涙が出るだろ」
電気椅子に腰掛けても男は俺に話しかけた。
「希望を絞る人間は人生の長さを理解してない。だが俺は希望の叶え方を知らなかった」
――だって誰が教えてくれんだ。女を抱きたいならソープに行けってな。
【たった1つの希望】2024/03/02
雑に書いてたらなかなか尖ったものになったので多分すぐ消します

3/2/2024, 11:42:55 AM