月と紅茶とタイプライター

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 パンッ

 家のドアを開けたとたん、軽い破裂音とカラフルな紙吹雪とに出迎えられて、僕は思わず目を瞬かせた。

「誕生日おめでとう」

 役目を終えたクラッカーの紐を、片手で弄びながら、お祝いの言葉を告げた恋人に、僕はようやく状況を理解する。その途端、思わず泣きそうになった。こんな風に誕生日を祝って貰ったのは、初めてだったから。

 黙って立ったままの僕に、おろおろとした様子の恋人に、飛び込むようにして、思いっきり抱きつく。ありがとう。嬉しい。大好き。恋人の肩に顔を埋めて、そんなことを溢れ出るままに伝えると、小さく笑いながら抱きしめ返してくれて。「ケーキもあるよ。食べる?」って、優しい声にまた泣きそうになった。

 一年前の誕生日、特別なことの何も無い一日を過ごした僕に伝えたい。
 
『次の誕生日は、数十倍、数百倍幸せな日になるよ』


お題『一年前』

5/9/2026, 9:57:09 AM