飛べない翼
小さい頃、縁側からスズメが飛び込んできたことがある。カラスにでも襲われたのか、片翼でバタバタ転げ回っていて、もう片翼は血が出ていた。
私は小学校に行かなければならなかったので、その後どうしたのかは分からない。でも、帰宅すると玄関にリンゴ箱があった。昔のリンゴ箱は木で出来ていて、蓋も釘を打ち、中にはおが屑がいっぱい詰まっていて、そこから釘抜きで蓋を取ってからリンゴを取り出すのだった。そのリンゴ箱の蓋の部分に網が張ってあって、そこに今朝の雀が居た。
手当てをしてもらったのか、その時はじっとしていが、翌朝からチュンチュンよく啼いて、中でバタバタ遊んでいた。
この子は飛べなくなったとき、何を思っただろう。この先、カラスやヘビに睨まれたら逃げるすべがない。私たち人間が足をもがれるのと同じだ。人間なら、頭脳があるから対策を講じることは出来るが、スズメでは義足も車椅子も杖も無い。「詰んだ」と思ったろう。
だけど、この子なりの知恵、と言うよりも本能的に人のいるところに逃げ込んだ。それで助けられて、手当てもしてもらい、餌も寝床もある。最良の選択だったね。
飛べない翼でも、いずれ飛べるようになる。最良の道を見つけて、とりあえず動くことがたいせつなんだな、と、小学生の私は思った。
11/12/2024, 3:42:53 AM