燈火

Open App


【終わりにしよう】


私、忘れようとしていた。
次の誰かと幸せになることを、あなたが望んだから。

数え切れないほど多くのものをもらった。
すべて箱に閉じ込めて、クローゼットの奥に置いておく。
容易に取り出せないように。失くしてしまわないように。
いつか要らなくなるとしても、まだ捨てられないから。
心の整理ができるまで、もう少しだけ。

流れ星みたいな人だった。
ふいに現れて、希望を残して消えていく。
でも流れ星ではないから、モノと思い出も残していった。
あなたのおかげで他人と生きる温かさを知った。
そして、あなたのせいでこんなに苦しんでいる。

私、生きていかないと。
この世界のどこにも、あなたは存在しないのに。

わざわざ探さなくとも、気配を感じてしまう。
使わないマグカップ。嫌いだった色。広すぎる家。
どれもあなたがいるからこそ必要で、大切にできた。
割れたら、壊れたら、新しいものを買えばよかった。
これいいねって振り向いても寂しくなるだけだ。

誰と話していても、記憶の中のあなたと比べてしまう。
あなただったらと考えて、意味のないことだと思い出す。
次の誰かって、誰のこと? どうしてあなたではないの?

触れられるモノは閉じ込めた。手の届かない場所に。
触れられないモノはどうしよう。手は届かないのに。
データは消した。記憶は消えない。感情が覚えている。

私、諦めていいかな。
あなたのいない世界で、それでも忘れないでいたい。

7/16/2023, 9:46:51 AM