「もう終わらせたい?…なぜそう思うんだい?」
自分の頭の中を見透かされたように、そう問われた。
何かを始めるには、終わらせなきゃ。
そう思っていた。
「何を?」
いや、全てを。
いまの状況を。
現況を。
状態を。
終わらせたい。
そして、新たに始めたい。
今の状態が続くと思うとワクワクしないが、
今の状態を終わらせると思うとワクワクする。
終わらせたそのあとに、新たに始めることにワクワクする。
「何を?」
別れたい。
あいつと別れたい。
終わらせたい。
「なぜ?」
未来がみえなくなったから。
幸せではないから。
「終わらせて、新たに始めたいことはなんだい?」
ピアノ。
ピアノを習いたい。
英雄ポロネーゼとか弾きたい。
弾けたらかっこいい。楽しそう。そう思う。
「それはいまでもやろうと思えばできるんじゃないかい?」
「いまの生活にプラスすれば、
それは始めることができるんじゃないかい?」
そういわれて、たしかに、と思った。
そう思うのは私が迷っているからなのだ。
終わらせたいが、終わらせたくない。
別れたいが、別れたくない。
そのタイミングを計りかねている感じなのだ。
だから、終わらせたいと思っている反面、
終わらせたくないという気持ちもまたあるのだ。
どっちも本心なのだった。
「ふふ、そうだね。」
「幸せじゃない。そう君は言ったね。」
「でも、いまの生活にも幸せな瞬間はあるだろう。」
「ほんの些細な幸せでもいいのさ。」
たしかに、昨日の晩に食べたアジの刺身はひっくり返るほど美味しかった。
その瞬間はたしかに小さな幸せを感じたはずなのだ。
「ふふ、じゃあ簡単さ。」
「いまの生活の中にプラスすればいいのさ。」
「そして新たに始めればいい。」
「きっと英雄ポロネーゼだって弾けるはずさ。」
そういわれてひどく納得してしまった。
ようは図星だったのだ。
言われたことすべてが。
「GOOD LUCK!!」
そうして私は、
新たな道を歩み始めたのだった。
「物語の始まり」
END
4/19/2025, 8:26:53 AM