NoName

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雨脚が立つ街中を
傘一つに身を寄せあって二人で歩く。

あぁ、肩がはみ出てる
そう思って傘を相手の方に傾けると
今度は自分の肩が濡れていく。

所詮は一人用の折り畳み傘だ。

濡れるのも止むなしと悟り顔で歩いていたら
肩を掴まれた。

「濡れてる」

「知ってる」

わかってやってたんだよ。

ふと目をやった先に小さな相合い傘の落書きがある。
学生カップルが書いたものなのだろうか。
いや、相合い傘のこのマークはおまじないだったか?

丸い可愛らしい女の子の字で二人の名前が書いてある。

好き同士で書いたのか、または相思相愛を願って書いたのか分からないが、ひっそりとあるそれが微笑ましく見えた。

「今の私達みたいだね」なんて言えるのは可愛い女の子や女性だけだ。
私みたいな類の人間は思っても言えない。
あまりにも似合わなすぎて口に出せない。

何も言わず通り過ぎようとしたら
肩を叩かれた。

無言で見上げるとあの落書きを見ている。

「…何だか俺たちみたいだな、あの落書き」

…君のそういうところが好きだよ。




6/19/2023, 10:09:12 AM