望月

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《閉ざされた日記》

「お父様! 本を読んではくれませんか?」
「本? もちろんいいぞ、どれがいい」
「わぁ、ありがとうございます! 僕はこれがいいです!」
「……その本は、」
「お願い、お父様。僕はこの本が聞きたい」
「……はぁ、わかったよ。ただマリアには内緒だからな?」
「うん、お母様には言わない!」
「ああ。……これは、王へと成る物語だ——」


 オレの様な孤児も暮らす貧民街では、明日を生きられる確証が無い。
 微かな残飯を奪い合い、街ゆく人から金銭を盗み、今を生き抜くことだけを考える。
 当然奪い合いの中で殴られることもあるし、盗みがバレれば蹴られることもある。ましてや富裕層など、この街で暮らすオレたちのことを人間だとは思っていないだろう。
 それでも、その生を疎まれながらも生きる。
 それが、オレの毎日だ。

 急に衛兵が来て、そいつらに金を渡されたという連中がオレを衛兵に突き出した。
 すぐにオレは、表街の独房に閉じ込められた。一週間反省していろ、とのことだったが、心当たりがありすぎてなんのことだか分からなかった。
 結局そこから出られたのは、かれこれ二週間が経とうとしている頃だった。余罪が多かったっぽいけどまだ小さいガキってことで一旦許された……とかなんとかで。たしか。
 貧民街で共に盗みなどをやっていた仲間の元に戻ろうとしたら、そこには何も無かった。
 衛兵曰く、王が国の浄化だ、と言って燃やしたらしい。貧民街を、丸ごと全部。
 つまり王は、オレたち貧民を皆殺しにした。朝方に焼かれたと言うから、きっと、生きたまま迫る炎に身を焼かれたんだろう。
 どれ程辛いものなのかは分からないが、きっと、苦しかったろう。
 だからオレは、こんな国を変えることを目指すことにした。オレの仲間の復讐の為に。

 戦闘センスがあってよかった。
 オレは傭兵として名を挙げ、今や貴族の護衛としても雇われる程の実力だ。
 そして、遂に待ち望んだ奴らから声が掛かった。
 王太子殿下の、護衛の依頼だった。
 これは、好機だ。絶対にこの機会を逃したりしない。
 その日の為にオレは準備をする。
 誰にも知られないようにするのは、絶対だ。


「……ふ。なんだ、もう寝たのか? これから物騒な場面から離れるというのに……いや、そんなこともなかったな。次のページから初の王族殺しの感想を語ってる……寝てくれて助かった……」


 オレは遂にやったんだ! この手で……!
 やった! オレでもあいつらをやれるんだ!!


「二行読むだけでこれ以上は見るに堪えないな……若いが故の暴走……にしては規模がでかいか。まあ、これを寝物語にする息子も大概だがな。……というかこの日記は、王にとって消すべき過去として鍵を付けてたはずなんだけどな、酔って開いたまま忘れてたのか。……またな、『オレ』」

1/19/2024, 7:45:03 AM