私の母方いとこは、猫みたいだと言われていた。
私の父親から聞いた話で、彼女が風車で遊んでいたところ、風がよく吹く場所はトイレの窓だと駆け出しだらしい。風が吹く場所を知っているのは、猫ぐらいだそうだ。
いとこは猫っ毛で、吊り目で、肉付きが良く、小柄だ。しかもお喋り好きで、人慣れしている。確かに、愛らしい猫と何ら変わらないかもしれない。私の母親も、自分の娘よりも小さな彼女を気に入っていた。
いとことは1歳差で、向こうは10ヶ月も先に生まれた。赤ん坊の私を「赤ちゃん」と可愛がってくれたが、私は彼女の背を5cmも追い抜くほどに成長してしまった。母は何故か、いとこを憐んでいた。
「あんたが急に大きくなったから、あの子はさぞ怖くなったでしょうね」
遺伝子を配った生き物が何を言っているのやら。よほど、目に入れても痛くない子と出会えて頭が浮かれいるらしい。
事実、いとこは魅力的だ。高校の文化祭で、彼女はギターを鳴らして、興奮した観客は彼女の名前をコンサートホール中に響かせたそうだ。幾人の異性と付き合っていた上、コスプレイヤーとして上京して、多くの人と交流を深めていた。
彼女の周りには、常に追い風が吹いていたのだろう。ただどうもその追い風は強すぎたようだ。
中学生にして両親を失い、社会人になってから卵巣のう腫で入院する羽目になった。その上うつ病にかかりながら、痴呆になった祖母の面倒を見た。職も転々として長く続かなかったらしい。
いとこが今の夫と結婚する前は、自分は両親のように長く生きられないかもしれないと嘆いていた。とは言いつつも、結婚をして子どもを出産したのだから、少しでも誰かの記憶に自身の思い出を残したくて必死だったのだろう。
もし、彼女に吹く風が桶屋まで儲かるようになってしまい、猫のような彼女がとうとう三味線ならぬギターの弦に生まれ変わってしまったら、私は残された甥っ子に彼女の思い出話を弾き語りでもしながらやってみようか。
(250306 風が運ぶもの)
3/6/2025, 12:48:28 PM