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キラキラと輝くような、暑い夏が終わったこの頃。
私たちの高校では文化祭に向けて、せっせとダンボールを集めたり、ペンキを塗ったりと大忙しな日々を送っていた。
そして、とある日の放課後、私は、2年2組の教卓の前に座って、そんな生徒達を見守っていた。時折、あれが無いこれがないと言われ、私も探す羽目になったりして、意外と忙しかったりもするけど。
そんな中、私たちの教室がある階の一個上の方で、華やかでたくましい音が聞こえてきた。音楽にはあまり触れてこなかったから分からないけど、トランペットの音だろう。
「そういえば先生、吹部の演奏って俺たち見る時間あるんすか?」
と、体操着をペンキで汚しまくっている、1人の男子が私に聞いた。
「あー、まぁシフト制だからねぇ。そこら辺はみんなと相談だね」
「えー!今回の演奏、勝がソロをやるんすよ?!友達である俺が見ない訳にはいかない!」
「……え?」
男子の思わぬ発言に、間抜けな声を出してしまった。
「勝君が、ソロをやるの?」
「え? 知らないんすか? アイツ、確かオーディションでソロを勝ち取ったんすよ。確か、クラリネットのソロを代わりにふくとかなんとか……」
私は、話を聞いていくうちに顔が熱くなっていくのを感じた。
勝君とは、2年4組の生徒。一言で言えば、優等生。
勉強も運動も学年で1位、しかも勝君は吹奏楽部に入っており、今までここの高校は、コンクールでは銅賞止まりだったのを、勝君が入ってから東関東まで出場するほどの実力を持つようになっていた。
そんな勝君に、私は、
「先生? 顔赤いっすけど、保健室行きます?」
「えっ? あ、いや大丈夫」
こんなの、誰にも気づかれては行けない。
私は、去年の文化祭の吹奏楽部の演奏で、勝君がトランペットのソロを吹いているのを見て、恋をしてしまった。
ただ単純に、カッコよかった。一目惚れをしてしまった。
「……でも、結ばれてはいけない」
教師と生徒。これは、決して結ばれてはいけない恋。
窓から、涼しい風が吹いてくる。本当なら、甘酸っぱい思い出になるはずなのに、なんだか寂しく、穴が空いた部分に風が吹き抜けていく。

木々が枯れ始めた去年の今頃、私は恋に落ちましてしまったのです。

9/21/2023, 11:16:15 AM