まだ見ぬ世界へ!
僕の父さんと母さんがなかなか餌をくれなくなって何日後か。
もういよいよお腹が空いて仕方がなくなった。
たまに、父さんや母さんが近くまで来る。しかしこれまでみたく、直接巣までは来てくれなくなった。きょうだいみんなで必死に呼ぶのだけど、近くの枝だとか空中の線だとかに止まるばかり。わざわざ僕らに見えやすいところに。
もう限界だ、と僕らのうちの一羽が呟いた。一番最初に卵から出た、と聞いている。
羽を広げ、ばさばさと揺らす。
少し浮いた。これは僕らもできる。
しかし彼は、そのまま脚で巣を蹴り、ついっ、と父さんがいる枝まで飛んだ。
飛んだ……。
僕らは息を飲んで見守った。
枝に、止まろうとしてなかなか止まれない。飛び方も分からないんだ、止まり方なんてもっと分からない。
やがてなんとか枝に止まり、父さんになにか鳴いた。巣にいるときと同じ鳴き方。すると、父さんがあいつに餌をやった。
僕らは分かった。あそこまで行くと、餌がもらえる。
僕らは本当にもう限界だった。
みんな、ばさばさと羽を広げ始めた。
つい、つい、と次々と巣を飛び出していく。
僕も、と羽を羽ばたかすが、体は浮くのだが、どうしても巣を蹴れない。
風に煽られないか、真っ直ぐ飛べるのか、上手く止まれなかったらどうなるんだ。
でも、限界だ。
思い切り巣を蹴る。ついっと、空を渡った。これが、飛ぶ。羽はもうすっかり風を掴んでいた。
枝に近づき脚を伸ばし、早すぎたか枝が掴めない。なんとかもう人羽ばたき、ようやく掴めた!
体が止まった。そこには母さんがいた。
「ようこそ、まだ見ぬ世界へ!」
もらった青虫は美味しかった。
6/28/2025, 3:03:44 AM