切ない別れ
夏の終わり、蒸し暑い夜風が街を撫でる中、二人は最後の夜を共にしていた。喧騒から少し外れた静かな公園。ベンチに腰掛けると、彼女はポケットから小さな包みを取り出した。
「これ、最後のプレゼント」と彼女は微笑んで手渡した。
「…ありがとう」と彼は受け取りながら、どこか言葉が詰まるのを感じた。彼女の声にはいつも以上に優しさが込められていたが、その裏には別れの予感が漂っていた。
二人の沈黙が続く。夜空に星が瞬き、セミの鳴き声が遠くから聞こえてくる。だが、その音も二人の間には届かず、ただお互いの気配だけが濃密に存在していた。
彼女は深呼吸をし、決意を固めたかのように彼の方を振り向いた。
「ごめんね」と彼女は小さな声で呟いた。その言葉が彼の心に刺さる。何を謝っているのか、彼は分かっていたが、理解したくなかった。
「何が…」と問いかける前に、彼女は一歩近づき、彼の唇にそっと自分の唇を重ねた。驚きと共に彼は目を見開いたが、その瞬間に全てを悟った。彼女の唇は暖かく、切なくも甘い味がした。
キスは短かったが、その中に全ての感情が詰め込まれていた。彼女が彼の唇から離れた瞬間、涙が彼女の頬を伝い落ちた。
「さよなら…」
彼女はそう言うと、振り向かずにその場を去った。彼はその背中を見送るしかできなかった。何かを叫びたかったが、声にならなかった。身体が石のように固まってしまい、ただ見つめることしかできなかった。
彼女が闇に消えていく中で、彼は初めて涙が溢れ出た。目を閉じると、彼女のキスの温もりがまだ残っている気がした。だが、それはもう二度と戻らない過去の一部になっていた。
彼女が残した小さな包みを開くと、中には二人で撮った写真が一枚入っていた。彼女がいつも大切にしていた一枚だった。
「ありがとう…さよなら」
彼は静かに写真を胸に抱き、もう一度彼女の名前を心の中で呼んだ。そして、ゆっくりと立ち上がり、彼女が去った道とは反対の方向へ歩き出した。
8/20/2024, 2:25:42 PM