maria

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さっきから
その人が視界に入っているのだけれど
十分にわかっているのに
あえて焦点を合わそうとしないでおく。

香りのいいコーヒーを喉を通す前に
ゆっくりと薫りだけを味わうように、
ただ同じ空間にいることを。

その人が友人と会話を交わし出ていった。

ほぅ と息を吐いて目を閉じる。

その真っ暗な中で
ついさっきまで焦点を敢えてぼかした
あの人の姿を探す。
暗闇の中で、ぼんやりと浮かび
やがてくっきりと輪郭を取り戻した人は
私とは一ミリも関わりのない話題に興じ
一ミリもかすらないまま 出ていった。

だあれもなにもきづかない

何も言わない 何も聞かない

何も始まらなくても
何も起こらなくても

私の恋物語の主人公は わたし

心の中では既になにかが
こんなにもハッキリ芽生えているのだから

皆にとって あなたにとって
なんてことない 午後の日常でも

私にとっては 甘く切ない 恋物語







「恋物語」

5/18/2023, 11:18:06 AM