鐘の音が鳴り響くと、街には朝が来る。
そしてその鐘を鳴らすのが、僕の祖父の仕事だった。
祖父は街に住む誰よりも早く起き、毎朝一番に鐘を鳴らす。そうすると眠っていたはずの街が動き出し、明るい活気に満ち溢れる。
祖父はその光景を鐘がある塔の天辺から見下ろすのが好きだった。
そして僕も、祖父の傍らでその光景を眺めるのが大好きだった。
まるで街が息を吹き返したようで。
それを生み出す祖父が誇らしかった。
「ねぇ、じいちゃん。じいちゃんはどうしてこの仕事をしてるの?」
小さかった頃の僕は、ある日そんな質問をしてみたことがある。祖父は「んー?」と、少しだけ思考しながら、「なんでだろうなぁ」と、呑気な様子で呟いていた。
「気付いたらこの仕事をしてたからなぁ。けど、ほとんどの人がそんなもんだろう。でもなぁ、俺は思うようになったんだ。きっとこうして続けてこれったってことが、どうしてこの仕事についたかの答えなんだろうよ」
小さかった頃の僕には、祖父の言ったことの意味がよく分からなかったけれど、あの時の祖父がとても穏やかに笑ったことだけは覚えている。
あれから技術が発達し、鐘は人の手で鳴らさなくてもよくなって、祖父がやっていた仕事は必要なくなってしまったけれど、僕はあの日に聞いた祖父の言葉の意味を今でも探している。
さて、そろそろ僕は仕事に向かおうか。
いつか出会うかもしれない、僕だけの答えを求めて。
【鐘の音】
8/6/2023, 8:00:48 AM