K作

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題 喪失感

盛ってやった。お姉ちゃんの顔を。
コンちゃんにメイクを教えたのはコンちゃんのお姉ちゃんである。4歳上のお姉ちゃんは、身内のコンちゃんから見てもすごい美人で、派手な人だった。そんなお姉ちゃんは妹が大好きだった。だから思春期のコンちゃんが、「メイク、教えて欲しい⋯⋯ 」と自分を頼ってきた時は、きゃあきゃあ言って、全力をだした。
コンちゃんはその集大成を、今、姉の顔で試していた。つや系のファンデーションと下地、肌の白いお姉ちゃんには濃い色のアイシャドウがよく似合う。アイラインで目元を〆て、まつパの施されたまつ毛にマスカラを追加してさらに美しく。眉毛は平行に、血色の薄い頬と唇には気持ち濃いめの色を差した。
道具を置いて、「終わったよ。」と言えば、お姉ちゃんは嬉しそうにしている(気がする)。今日は特別な日なのだ。
ふたりで写真を撮った。コンちゃんはお姉ちゃんの横に並び、スマホを内カメラにして腕を斜め上に伸ばした。ポーズは、片手を頬に添えて、目を閉じるやつにした。
「めっちゃ盛れてる(笑)」
コンちゃんは塩な美人顔タイプだったが、お姉ちゃんは派手な美人顔タイプだった。お姉ちゃんの周りにはいつも華が咲くようだった。というか今は咲いていた。
出かける時間になってしまった。今日は特別な日なのだ。お姉ちゃんは迎えに来た黒い車に乗って先に家を出た。コンちゃんはお父さんが運転する白い自家用車で姉を追った。
「泣くんじゃない」
お父さんが言った。
「だって、」
「泣いたら、お姉ちゃんが離れられないだろう。お姉ちゃんは向こうで幸せになるんだ」
そう言うお父さんも泣いていた。コンちゃんは、親心は複雑ね⋯⋯ なんて思いながら、もうひとつ鼻を啜った。
着いたのは火葬場だった。
お姉ちゃんの周りに咲いた花は取り出され、棺は炉に入れられた。1時間くらい経って、お姉ちゃんは炉から出てきた。
数時間前にコンちゃんが施したメイクは全て落ちていた。つや系のファンデーションと下地、肌の白いお姉ちゃんには濃い色のアイシャドウがよく似合っていたはずだった。アイラインで〆た目元も、まつパとマスカラで美しかったまつ毛も、平行な眉毛も、気持ち濃いめな頬と唇も。全て落ちていた。
コンちゃん自身のメイクも、もうほとんど、落ちてしまった。

9/11/2023, 9:54:47 AM