NoName

Open App

彼女は知らなかった。
彼らの注目を。
目の前には白い絵画があった。
「この絵画の落札金額は、五千万だ」
興奮気味に話す、彼を横目に、私はその不思議な絵を眺めている。
何が描かれているかは、よくわからない。
ただ、この作家は六十年代ポップアートを代表する作家のもので、それはそれは、購買層は作家を褒めそやしていた。と聞いた。
この白い絵は、近くから見ると何層もの絵の具が塗り重なったものであるということが分かった。
そう、何重もの様々な白。
塗り固められ、ひび割れた画面。
何であろう、この欠落のような溝の中にはなにが詰まっているのだろう?
自信?
それとも、怒り?
はたまた、アーティストの、承認欲求とか?
「君は、もうちょっと、考えるべきだ」
と、彼は言う。
「それなら、この絵はなに?」
「完璧なキャンバスの上の生命活動さ」
そんなこと言われても。と、私は思う。
この作家が、何を表現したかったにしろ、私はこの絵に、何者でもない、ヒリついた欺瞞のようなものを感じたのだった。

7/19/2023, 10:18:16 AM