ミミッキュ

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"海へ"

以前来たあの海、帰る間際に「今度は日中に来よ」と約束し、その後お互いのスケジュールを確認して直近で空いている(午前だけだが)この日に来た。
夜ここに来た時とは全く違う。あの時は黒に月の青白い色が反射して月の道が出来ていて、あの時の海も綺麗だったが、水の中に青い絵の具を垂らして溶かしたような、澄み渡る青い海。空の青と大差ないその色は、間に雲が無かったら境目が分からなかっただろう。色が違うだけでこんなにも違く感じるのか。
あの時と違うのは色だけじゃない。あの時は飛彩の運転だったが、今回は夜勤明けの為俺の運転で。飲み物も近くの自販機で買ってきた麦茶。今でも十分暑いが、これからどんどん暑くなっていくこの時間帯には染みる冷たさだ。
「はぁ〜、気持ちいい〜…」
ベンチに座り、買ってきたばかりの冷たい麦茶を自身の首元に当てて涼む。すると横から小さな布が俺の前髪を掻き分けて額に、ポンポン、と当たった。見ると飛彩が、自身の持っているハンカチで俺の額の汗を拭ってくれていた。
「…ありがと」
「何、ドライバーへの礼だ」
照れくさく礼を言うと、そう言われた。少し照れ隠しに、ハッ、と小さく笑って正面を向く。
「別に夜勤明けでヘロヘロの奴にハンドル握らせたくなかっただけだ」
そう言うと「そうか」と返された。首元に当てていた麦茶を首元から離してキャップを開け、体の中へと流し込んでいく。火照った体の中にまで冷たさが染み渡って、また気持ちいい。
そしてしばらく…時間の許す限り、ゆっくり優しく響き渡るさざ波を聞きながら、2人でベンチに座り昼の海を眺めていた。

8/23/2023, 11:04:49 AM