SAKU

Open App

耳で聞いた言葉を頭の中で咀嚼する。主語と述語と目的語、装飾語。綺麗な言葉かそうでないかも判断は難しい。
生まれた時から耳にしていた言語と違うものに難儀していた。聞き取ることすらうまくもできずに、慣用句か直訳でも問題ないか、ひとつひとつ並べて内で訳していく。
流れていく話題に、皆が一瞬止まってから笑い始める。おそらくなにか面白い話だったのだろうが、ひとつ前に発せられた言葉を分解するのに忙しく、遅れてすら何も分からず。笑顔になった周囲を少し離れた場所から眺めるだけになってしまった。困っている顔で気を遣わせたくなくて、唇を横に引き結んだ。
笑いが収まった後、身内である男が近づいてきて頭に大きな手を乗せてきた。
労りにしては乱暴なその手に押される形で首を俯けたのは別に涙を隠すためではない。


不機嫌そうに相手が向かってくるのにどうしたのかと尋ねると、座っていたベンチに音を立てて座った。
骨に何かないか心配になったが、そうそうやわでもないし、若いからなと一人で納得して頷いた。
話が通じなくて困る。ゆっくりと言葉を選んで伝えてくれた相手は、先ほどまでの依頼者達を親指で指した。
言葉が共通であっても通じない苛立ちに眉を顰めている相手には悪いが、自分だけではなかったのだと嬉しく思って、つい笑んでしまった。
つられたように口の端を吊り上げて、自身の頭に手を乗せてくるのは、あの時と違う大きさだけど、同じ温度のように思えた。

7/19/2024, 10:08:36 AM