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【列車に乗って】

このご時世には珍しい汽車だった。
蒸気の中に座っているかのような蒸し暑さを温いミネラルウォーターで誤魔化して、私はあの人とこの機関車に乗っていた。汗が滝のように出て、このままアイスのように溶けてしまいそうだった。
いや、むしろ溶けてしまった方が楽だろうか。心臓がバクバクして、嫌な汗もだらだらと混じって流れる。
爪の間に、まだアレの血液が残っているような気がしてきた。
隣にはイヤホンを耳につけたあの人が居た。何かバラエティものでも見ているのか、時々小刻みに肩を震わせる。
それがいつも通りの光景と似通いすぎて、吐き気が込み上げる。何故、どうして、どうして、自分の隣を人殺しに預けて、その死体も見て、その上でバラエティものを見て笑える。頭がおかしくなっているとしか思えなかった。
何故?私の震え声の告白を聞いた途端、親の財布を引っ掴んで、電車、いや汽車を手配して逃亡しようだなんて。なにもかも判断が早すぎる。友達ってだけで?
何もかもわからない。わからないけど、正気が今の今まで保てているのもこの人のおかげに違いなかった。

3/1/2024, 9:04:34 AM