ずい

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『桜散る』

白魚のような腕が桜の木から覗いていた。
その日は気温差のせいか体がだるくて学校を早退した。入学したばかりなのに、と足元に広がる桜のじゅうたんをぼうっと見ながら家に向かった。

「こんな時間に人が通るなんて珍しい」

凛とした声に目線を上げると腕が見えた。
もう熱が出始めたのかと思って目をこする。

「私が見えるなんてもっと珍しい。ねえ、貴方名前は? 暇で退屈なの。お喋りしましょ」

顔色の悪さを指摘され、少し眉をひそめると腕はころころと笑って言った。

「見える子なんて久しぶり。心配するなんてもっと久しぶり。ねえ人の子、目を閉じて。貴方にまとう悪い気はすべて私が連れていってあげる」

腕の近く、桜の根もとまで行っても腕の先は見えなかった。木に寄りかかって座ると大人しく目をつむる。
一際強い風が吹いた。

それから少しの間眠っていたらしい。
目を覚ますと腕は消え、熱っぽさも明日の学校への不安もなくなっていた。
その代わり体じゅうに上から散ってきた桜の花びらがついていた。
あの腕は一体なんだったんだろうか。

4/17/2024, 11:26:15 AM