“真夜中”
友人に頼まれていたラジオの修理をするのに夢中になっていた俺は、ふと何かが聴こえてきたような気がして頭をあげた。
スマートフォンの画面をみれば時刻は深夜2時をまわっていた。こんな時間になんだよと少し隣人の騒音トラブルなんかを思い浮かべてげんなりしたが、よくよく耳を澄ませばそんなに不快な音ではない。
喋り声というよりは歌声だ。
ベランダの窓に耳をつけるとやはり隣の部屋のやつがベランダに出て鼻歌を歌っているようだった。
音楽には詳しくない俺にはその歌がなんなのかはわからないし、鼻歌の主とはどうにも馬が合わず顔を合わせば小言の応酬、酷い時にはお互い手や足が出るというくらいの犬猿の仲だというのにどうしてか俺はずっとその鼻歌を聞くために窓に耳を押し付けたまま動けなくなっていた。
繊細そうな見た目からは想像もつかないがなり声でとんでもない罵詈雑言をまき散らす彼からは、想像もつかない、いや寧ろ180度回ってその繊細そうな見た目通りの透き通る様な音色で、ゆったりとした歌を奏でていた。
悔しいことに完全に聴き惚れてしまった。
ベランダの間の仕切りのせいで彼がどんな姿でどんな表情でいたのかはわからないけれど、それで良かった。
きっと俺に聴かれているとわかったら彼はすぐに元の罵詈雑言発信マシーンになっていただろうから。
歌声を聴いているうちにだんだんと眠気が襲ってきて、名残惜しいがベッドへ潜り込む。
なんだかすごく、よく眠れる気がした。
5/17/2024, 2:42:47 PM