奇跡をもう一度
「お願いします。あの奇跡をもう一度」
「だーめ。奇跡は二度と起こりません」
「な、なんでぇ?」
「奇跡ってものすごく起こりにくいことでしょ。確率にしたら0.0001とかそんなの。じゃあ、奇跡が二回起こったら何?」
「それも奇跡」
「だよね。ってことは、もし奇跡が二回起こるとすると、奇跡×奇跡=奇跡。これを満たすのは、奇跡=0か1。つまり、奇跡は絶対に起こらない出来事か、必ず起きる出来事ってことになる。それっておかしいよね。ということは、もし奇跡が二回起こるとすると、って仮定が間違ってる。奇跡ってのはね、二度と起こらないから奇跡なの」
「つ、つまり……」
「二度と宿題は見せないってこと。自分の過ちは自分で解決しなさい」
私がきっぱり言うと、友人は肩を落として教室の机に向き直る。が、到底間に合わないと悟ったのか、精神統一に入った。前回は親が風邪をひいたというから仕方なく見せたのだが、今回みたいな単なるサボりはダメだ。そんなことで頼られたくない。
チャイムが鳴って授業が始まる。そういえば、先週は奇跡的にも宿題チェックがなかったんだよな、と思う。運が良ければ、今日も免れる可能性はある。
「宿題ノート集めろー」
あの子がビクリと肩を震わせ、絶望の表情で私を振り返ったので、そっと敬礼して煽っておいた。
10/2/2024, 5:07:59 PM