John Doe

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まだ薄く月が見えるなか、イヤホンを着けてお気に入りの音楽を探す。見慣れた街並みを素通りし、いつもと同じ道を歩いていく。
軽く荷物を持ち直し、改札を通ったら駅のホームで待っている君が「おはよう!」と笑う。

今日の授業なんだっけ?小テストあるの知ってた?
そんな他愛のない話をしているとあっという間に電車は最寄り駅に到着する。
同じ制服を着た人間についてぞろぞろと進んでいくなかで、気がついたら君は車道側を歩いてくれている。そんな事しなくてもいいのにと思いながらも、嬉しくてつい舞い上がってしまう。

君が誰にでも優しいのはよく知っている。だってずっと隣で見てきたから。私が特別なんじゃない。だからこんな日が来るということも分かっていた。分かっていたつもりだった。ずっと目を背けてきていたけれど、私に見せる顔とあの人に見せる顔は全然違うんだ。
私の前でもたくさん笑って、泣いて、怒って…色んな表情を見せてくれていたけれど、あんな顔私は知らない。あんな風に頬を赤く染めて!愛しいものを見る目なんて知らない!

どうして私じゃ駄目なんだろう。どうしていつも報われないんだろう。どうしてあんな男を選んだんだろう。どうして、どうして…

いつもと同じ音楽を流して、いつもと同じ道を歩く。今日はすれ違う人達が皆私を避けるように道を開けてくれた。
もう節分も過ぎる頃だろうに、なぜだかいつもより頬が冷たく感じる。

#寒さが身に染みて

1/11/2024, 2:05:50 PM