五月に入ったというのに凍えるような風に吹かれながら温かい我が家の玄関を潜れば、何かを叩きつけるような音がリビングの方から聞こえてきた。
ダンッ ダンッ ダンッ
断続的に響き渡るその音に、私はお気に入りの革靴を雑に脱ぎ捨てると、リビングのドアノブに手を添えた。
音を立てないように静かに開けると、ドアの隙間から片目だけ覗かせて、リビングを見渡す。
また、ドンッと音がした。
いきなり響いた大きな音に驚いて思わず声を上げれば、キッチンの方から「おかえりー」という、君の呑気そうな声。
何食わぬ顔で「ただいま、何作ってるの?」とキッチンカウンターから流しにいる君の手元を覗く。
「みんな大好きなアレだよ、アレ」
黄色っぽいパン生地を打粉をしたまな板に叩きつけながら、君が朗らかに笑った。
テーマ「優しくしないで」
5/2/2024, 5:16:15 PM