【いつまでも捨てられないもの】
小学校の頃、卒業制作でオルゴールの入った木箱を彫刻したことがある。
一番見える上部分には、修学旅行で見た綺麗なものをずっと覚えていたいと紅葉の葉を彫った。
修学旅行でお城を見にクラス全員で階段を登っている時に、なんとなしにちらりと横見たら紅葉があった。
上から柔らかに陽光が掛かっていて、薄く輝いたようなあの紅い葉は衝撃だった。綺麗だな、なんて陳腐な言葉も出てこずに、後ろの人に気も遣えずに立ち止まってしまった。それだけ綺麗で、この記憶を一生忘れないでいようと脳裏に焼き付ける気概でまじまじと見た光景は、無事に今でもくっきりと思い出すことができる。
特によく思い出すのは、卒業制作の木箱の彫刻を見た時だ。
少し不格好な、それでも当時は一番いい出来だと思った紅葉の彫刻を見た時、ぱあっと鮮明にあのときを思い出すことができる。
木箱の中には、小学生から今までで貰ってきた手紙が詰まっている。
友達から、先輩から、後輩から。全部大切な宝物だ。
オルゴールは木箱を開けた時に鳴るようになっていて、オルゴールが小学校の校歌なもんだから、懐かしさが編み込まれたような箱になっている。
掃除のときにでも偶々見つけて紅葉の光景思い出して、開けて校歌を思い出して。
中には小学校から上の手紙が全部入っている。掃除機なんてそこら辺に置いておいてオルゴール優しい音と共に手紙を覗くと、当時の背格好にでもなった気分だ。
いつまでも捨てられないもの。
小さい頃を思い出す、いっぱいに記憶が詰まったあの木箱。
8/18/2024, 3:25:55 AM