かたいなか

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「『時告げ鳥』はニワトリ、時じゃないが『春告魚』はメバルにニシン、『春告草』は梅の異名。
このアプリ入れて一番最初に題材にしたキクザキイチゲはアズマイチゲの仲間、春を告げる花だわな」
時を告げるって、学校のチャイムとか普通に腕時計とか、あと他に何があるだろな。某所在住物書きは某時告げる山羊の登場する映画を観ながら言った。
外では秋を告げる花、シュウメイギクがちらほら、花を開き始めている。

「時計っつったら、日時計と水時計と、砂時計と、振り子時計あたりは知ってたが、燃焼時計なんてのもあったわ。種類豊富よな」
風時計も調べたけど、よくよく考えたら風なんざ、いつ吹くか分からんから、そもそも難しかったわ。
物書きは当然の理由に至り、納得する。
「……で、書きやすい『時告げ』はどれだ?」

――――――

地元スーパーの青果・鮮魚コーナーは、あるいは八百屋や魚屋さんは、時を告げる先触れです。
スイカひとつとったって、そこには季節と時期があるのです。最初に鹿児島のような沖縄・九州地方が入ってきて、それから段々スイカ前線が北上。
最後に北海道・北東北地方が出荷されている間に、秋の果物へ繋がるのです。

と、いうのは完全に「信じるか信じないかは」の領域ですが、まぁまぁ、取り敢えず今回の物書きがご用意したおはなしへ移りましょう。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某アパートの一室に、藤森という雪国出身者がぼっちで住んでおりまして、
実家から午前中に送られてきた段ボール箱を前に、
腕組んで、口固く結んで、ため息静かに吐いて、
視線を、首と一緒に小さく下げておりました。
雪降り花咲き山菜茂る田舎から、田舎クォンティティーの容量で、今年も「季節」が届いたのです。

再度明記します。
雪国出身の藤森、ぼっち暮らしなのです。
そのぼっち暮らしの藤森に、藤森の実家が、
食べ盛りの子供1人を抱えた都民2世帯3世帯分のクォンティティーとバラエティーを
段ボールに詰めて寄越してきたのです。

「……ひとまず高葉井と宇曽野と付烏月さんか」
タップタップ、スワイプ。
藤森は職場の後輩のコウハイ、もとい高葉井と、
親友の宇曽野と友人のツウキ、付烏月におすそ分け予告のメッセージを送信。
『雪国より晩夏をお知らせします
 各自欲しい野菜があれば連絡たのむ』
真っ昼間のチャット枠に既読はポツポツ付いて、
後輩の高葉井からは、泣いて拝んで感謝のスタンプが秒で送られてきたのでした。

保冷の徹底された段ボールの中の発泡スチロール箱には、晩夏を代表する野菜がどっさり。
じき旬のピークを終えるトウモロコシに、焼いて少しの醤油を垂らすのがたまらないナス、それからコロっと両手乗りサイズのカボチャ等々、等々。
夏です。晩夏です。
最低気温が20℃を下回り始めている雪国が、今年も時を告げに来たのです。
『そろそろ、秋がやって来ますよ。』

春の山菜、初夏の野菜、晩夏の野菜に初秋の新米、晩秋初冬の果物。それらは時を告げる先触れです。
季節をたがやし、季節に立ち向かい、季節を収穫して味わい季節に眠る藤森の故郷は、
時間のせわしなく流れる都会に、「お前は今『ここ』にいるんだよ」と、知らせてくれるのです。

それはそうとて量が多い。

「近所の稲荷神社にも――」
稲荷神社にも、少し分けるか。 本日二度目のため息を吐いて、キッチンに袋を取りに行った藤森。
トウモロコシとカボチャと、ミョウガの甘酢漬けと何が良いだろうと、考え事をしながら視線を、
実家から送られてきた段ボールに、戻しますと、
「……こぎつね?」
ちょこん、コンコン。どうやってセキュリティーとロックをすり抜けたやら、
尻尾をバチクソに振り倒す子狐が、藤森をキラキラおめめでガン見しています。
「おまえ、どうやって入ってきた?」

細かいことは気にしちゃいけません。
つまり、要するに、都内にぼっちで住む雪国出身者のアパートに、実家から時を告げる段ボールが届いたおはなしなのです。
そこに美味しい美味しい茹でもろこしの気配を察知した前回投稿分登場の子狐が、お家が近所だから遊びに来ただけなのです。
しゃーない、しゃーない。

9/7/2024, 4:18:27 AM