作品4 秋風
あなたへ
そちらはどんな感じですか?
あなたがいなくなったと聞いて、わたしは
今日までずっと泣いていました。これを書
いている今も、涙が止まりません。
わたしとずっと一緒にいてくれると、灰色
な世界を鮮やかにすると、
そう約束したのは嘘だったのですか?
ずっと、あなたを待っていました。
一応伝えますが、恨んでなんかいません。
このことはあなたにとって不可抗力ですしね。
思い出せますか?私達が初めて出会った日。
わたしは鮮明に思い出せます。
夏の暑さからやっと抜けだせたと思ったら、
急に寒くなって。やけに風も強くて。その分
紅葉が綺麗で。
あなたはそこに一人、風景の中に溶けていま
した。わたしが今まで見たこともないほど、
透明な儚さを身に纏ったあなたはとても、綺
麗でした。
最後に交わした話の内容は、もちろん覚えて
いますよね?
ちょうど出会った日と同じような日。
あなたと舞い落ちる紅葉を見ながら、
イチョウを見てみたい
なんて言い合いました。
いつか、一緒に見に行こう。そして、もっと
色んな景色を目に焼き付けていこう。
そう約束しましたよね。とても嬉しくて、帰
ってから一人、そのことをずっと思い出して
ました。
果たしたかったです。あの約束を。
いつか、こころが落ち着いたら、あなたがい
なくなったときのような日に、必ず会いに行
きます。
イチョウの葉も持ってきますね。
果たせなかった約束も、私なりに消化してい
きます。
だから
お願いです。
わたしが死ぬまで、ずっとそちらで待ってい
てください。
今は亡き彼の葬式。棺の中に入れる手紙は、彼に直接送れる、最後の言葉。
そう思うとつい、書きすぎてしまった。
どうして彼は、病気のことを教えてくれなかったんだろう。どうして彼は、果たせないと分かっている約束を、交わしたのだろう。
返ってくることのない問いを、いつまでも棺へとぶつける。
帰ろうとしたら彼の親に手紙を渡された。彼が書いたらしい。律儀なことに、関わった人全員分あるそうだ。そこに、亡き彼の優しさを感じる。
彼がわたしに遺した手紙を、なるべく傷つけないように、優しくそっと開く。
たった一つしかない文章が、赤や橙で書いている。黒じゃないのが、彼らしい。
なんとなく、私の名前と彼の名前の色を確認してみた。
黄色だった。
その意図に気づくと、涙があふれだした。
『いつまでも、君を想うよ。』
そう書かれた真っ白な紙は、色なき風のように思えた。
⸺⸺⸺
ちと解説
色なき風とは、秋風の別の言い方です。
色のない風は、紅葉や枯れ葉などの色を少しの間身につけるそうです。もちろん、イチョウの黄色も。そして、色なき風は秋の寂しさや憂いなどの意味があるそうです。
ついでにいうと、イチョウの花言葉には「鎮魂」という意味があります。
彼とわたしの関係は、自由に考えください。
あなたの思うものが、正解です。
11/14/2024, 2:48:59 PM