十二月といえばクリスマスシーズン。
二十四日の夜に、良い子が寝ている間にプレゼントを置いていく。そんなシーンを想像すると思うが、みんな一度は思ったことであろう。
「サンタさんを見てみたい!!」と。
私もかつて、サンタさんに会うべく布団に入っても頑張って起きていたが、どうしてもすぐに眠ってしまって、起きる頃には朝になっていて、枕元にはプレゼントがちょこんと置いてあった。
あぁ、今年も起きていられなかった……と残念に思いつつも、目の前のプレゼントのワクワクで上書きされていくのが毎年恒例だった。
そんな私ももう、二十五歳。
アラサーに足を突っ込もうとしていて、二十四日の夜にサンタさんをワクワクと待つような歳では無いのだが、なぜこのような話を思い出したのか。それは、
今、ベランダにサンタと思わしき人影が、立っているからである。
本来そんな所に人がいれば、通報ものなのだろうが、赤と白のサンタ服を着たおじいさんが、ベランダでワタワタと慌てていると、恐怖よりも疑問の方が勝るものだ。
どうやら、こちらに入ってこようとベランダの戸をガタガタとさせている。
ちなみにこの音で私も目を覚まし、今に至る。
ずっと戸をガタガタさせているのだ。
本来子供を起こさぬようにプレゼントを置くはずが、戸の音を立ててしまったせいで起こしてしまってはサンタ剥奪案件だろう。
しかし、このサンタが全て悪いという訳では無い。
うちのベランダの戸は立て付けが悪く、開けづらい。コツがいるのだが、初めての人にはなかなか難しいのだ。
開けてあげようかなと、ついでに色々事情を聞こうと能天気に思ったその時。
シャンシャンシャンシャンシャン。
鈴を鳴らすような音が聞こえて、なんの音かなぁと思っていると、ベランダの手すりの向こうから何かが見える。
トナカイ……ソリ……大きな袋……そして……サンタ。
そう、もう一人サンタがやってきたのだ。
私のベランダ前でソリが止まり、様子を伺うように慌てているサンタに話しかけている。
窓越しなので何を話しているのかは分からないが、なにかジェスチャーを使って、この戸が開かないことを伝えているようだ。
話を聞いたサンタが、そんなわけなかろう、と言うように戸に手をかけた。
ガタガタ、ガタガタ。
開かない。
そりゃそうだ。慣れてないと開かないんだから。
自信満々だったサンタの顔は、だんだん歪み、首を傾げていた。
どうしてだろうとサンタ二人がかりで、ガタガタとベランダの戸を鳴らしている。
サンタ一人でも十分シュールなのに、二人に増えたら余計カオスになってきた。
カーテンをしめていないので、サンタが頑張っている姿はしっかり見える。
寝る前に、カーテンをしめなかった私を恨んだ。
何も出来ずぼんやり眺めていると、サンタと目が合った。
サンタ二人はこの世のものでは無いものを見たかのように、顔が青ざめていった。
正直その顔をしたいのは私の方だった。
見知らぬサンタが家宅侵入しようとしているのだから。
もう埒が明かないと判断した私は、意を決してベランダの戸をガラガラと開けた。
『……何か?』
「「……!!」」
戸が開いた瞬間、サンタ二人はポカーンとしていたが、だんだん花が咲いたかのように、サンタの顔が明るくなった。
あれだけ開かなかった戸がやっと開いて、嬉しかったのだろう。
二人から感謝されたが、自分の家の戸を開けて感謝されるのは不思議な気持ちである。
少し喜んだあと、ハッとしたようにそれぞれが持っていた袋を漁りはじめ、一つずつプレゼントを差し出した。
そもそもの目的がやっと遂行されようとしている。
もう子供では無いのだが、いいのかなぁとも思ったが、満面の笑みでとも渡してくるので、受け取ることにした。
サンタ二人はそれぞれ満足してソリに乗って帰って行った。
まさか、二十五歳のクリスマスイブにこんな経験ができるだなんて思ってもみなかった。
きっと、あのサンタ達は他の家庭にもプレゼントを配りに行くだろう。
こんな(家屋の構造的に)厄介なお家にもう当たらないように祈るばかりだ。
#イブの夜
12/25/2023, 8:06:53 AM