「手出して!」
そう言って彼女は自分の持っている香水を私に付けた。
「これ、いつも付けてるのだね笑いい香りだなってずっと思ってたの」
「そうでしょ〜!君好きそうだよね」
「香水苦手だけどこれは好きだよ」
いつも会うと彼女は自分の使っている香水を私の身にも纏わせてくれる。それを期待してしまうから、彼女と会う時の服はなるべく柔軟剤の香りが強くないものを選ぶ。
お日様のように明るくにこにこと笑う彼女からはいつもアールグレイの香りがしていた。
「なんか、これすっごく好きな香りなんだけどね、すぐに香り消えちゃうの、君のも消えちゃったね」
「消えてないよ、まだ十分香ってる。慣れちゃったんだと思うよ笑嗅覚は順応しやすいからね。」
「そうかな〜でも君が言うならそうだよね、いっか!」
そう、この香水は結構香りが残る。
本当に残る、一日中、家に帰ってからもまだ自分からアールグレイの匂いがするくらいに。
ご飯を食べて解散して、彼女と別れて1人になってからアールグレイの香りがしなくてもうそろそろ落ちたかなと思っていた。
けれど不意に自分から香水の香りがして、まだ落ちていないことを知った。
香りとは厄介なものだ、記憶に定着してしまって思い出も残ってしまう。ふと香った香りに覚えがあったら振り返ってしまう。
ワンプッシュがちょうどいい、それで大丈夫
充分香ってるよ。
2/23/2023, 2:12:46 AM