神崎たつみ

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#透明な水

『透明な水、と聞いて思い浮かべるのはなに?』
『超純水じゃないです? 自分に詩的なものは求めないで頂きたいものですな』
『いやいや、別に七種くんに詩的なものを求めてるわけじゃないんだけど』
『ほぅ? それは、自分には詩的なものは理解できない、と侮っておられると』
『なんでそうなるの!? 違うってば!! わかってるくせに酷いよ七種くん!』

 情報部で一緒とは言え、この二人だけで公に向けて会話していることはとても珍しく思う。ユニットも違えば趣味も違う。寮内でのサークルでも被らないのに何故? と言われるが、そんなのはオレも知りたい。以前同じユニットである茨に聞いてみたが、情報部ですので、と返されてそれ以上の返事はなかった。では、と遊木さんに質問をしてみたが、こちらもあまりはっきりとは答えをくれなかった。やはり茨と同じく、情報部だから、と。

『工業施設とか研究所で使われるらしいよね』
『そうですね。不純物を一切排した水ですので、一部では『飲むと危険』とか『触れると溶ける』とか言われてますね』
『そうそう。水中に含まれるミネラルも空気もないから、本当に澄んでるらしいよね』
『ええ。……まあ、そういうわけでですな。ここに超純水があるわけですが』
『飲んだら危ないってほんと?』
『では遊木さん飲んでみますか?』
『えっ!! そんな雑に勧める?!』
『自分じゃないですし! 勿論ですとも!』
『やだよ! 七種くんちゃんと説明しないと視聴者の人たちがびっくりしちゃうよ?!』

 危険物と言われるようなものを軽く勧めるなんて鬼か、と思わず笑ってしまった。あまりに軽快に進む会話に、面白くなって食い入るように見てしまう。

『仕方ないですね! 超純水というものはどういったものかご説明しましょう。……はい、本日の情報を駆使して調べていくコーナーの本題は『超純水』です。ご覧になってる皆さんはとっくにご理解頂けているかと思いますが!』

 そして茨による説明が入る。それを補佐しているのが遊木さんだ。フリップに絵を描いて図解していく。この情報部で作る配信はこういうものらしい。名前は聞いたことあるけどどういうものかわからないものなど、科学的なものや工業に使うものなど、身近なようで知らないものの説明をするらしい。今回の配信を見て何となくそう言う傾向のものだと理解した。

『そんなわけでですね、超純水というのは遊木さんみたいなものですな。わかりやすく言えば』
『……どこがわかりやすいの?』
『さて、自分の説明でわからないのであれば、ジュンに聞いてみるといいですな』
『え? なんで漣くん?!』
『では今回はこれにて失礼致します! 次回もお楽しみにしてくださいね!』
『え、ちょっと待って??』

 混乱したままの遊木さんを最後に写して配信が終わった。一体どう言うことなのか。何故最後にオレに聞けばいいと言ったのか、皆目不明だった。
 これは遊木さんから質問が来るだろうから調べておいた方が良さそうに思う。机の上に置いていた端末を引き寄せて検索をかけた。
 超純水の状態は保てない。空気に触れれば空気に含まれるものが溶け込むからだそうだ。周りにあるものは吸収していく貪欲さのことを言っていたのだろうか?
 茨の発言の意図はわからないが、手にしていた端末がメッセージを受け取って震えた。もうじき遊木さんが来るらしい。そのときに話してみるのも悪くはない。

5/21/2023, 1:42:41 PM