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それは彼の部屋にあるベッドの半分ほどの大きさで、ドアの横の壁に貼られていた。
何だろうと顔を近づけてみると、手描きの地図だった。
ちょうど真ん中に、ついさっき見たばかりの彼のアパートの建物が小さく描かれている。
「これ、自分で描いたの?」
感動と感心で勢いよく振り返った私に、恥ずかしさとうれしさが混じったような顔で彼は頷いた。
細い細い線で丁寧に描き込まれ、色鉛筆で淡く淡く色づけられた地図は、たくさんの言葉よりも彼がどんな人物かを教えてくれるようだった。

地図には様々なものが描かれていた。
メガネをかけたパンダの遊具は、駅から彼の家に来る途中の公園で見つけた。
みたらし団子が描かれた和菓子屋さんでは、いろいろなものを食べてみたけれど、みたらし団子が一番おいしかった。
花飾りのついた帽子を被ったおばあさんの絵をたどってみると、そこでは本当に花飾りのついた帽子を被ったおばあさんがいつも日向ぼっこをしていた。

そうやって私は、彼の家に行くたびに、彼の地図に描かれた一つ一つを確かめていった。
一つ一つを確かめるたびに、そんなふうに自分の身の回りを愛おしむ彼を、どんどん好きになった。
彼の地図に描かれたものを全て確認し終える頃、一緒に暮らすことになった。

「これからは共同制作だねぇ」
二人の荷物を運び込んだ部屋の壁に、道路の線だけが描かれた新しい地図を貼りながら、彼は楽しそうに笑った。

4/7/2025, 6:49:23 AM