思い出を越えて
何処までも澄んだ青空が広がる夏のこと。
あの時の私たちは、同じ夢を見ていた。
「私たちならこの国を守ることができる」
「うん。そうしたら、僕たちはいつまでも一緒にいられるよ!」
青空を背に笑う君は誰よりも高潔で気品溢れ、そして無邪気だった。
この国の騎士団で揃えば最強な私たち。志を共に、いつまでも共にいられるとそう信じていた。けれど。
それももう、偶に脳裏に過ぎる思い出の話。
目を開き、眼前に立つ敵を見据える。
「……自分の信念の為なら、国を裏切れるんだね。君にそういう一面があるなんて意外だったなぁ」
隣国との戦争の最中。騎士団の布陣が敵に筒抜けだった。間者がいると思ってはいたけど、まさかこんな身近にいると思わなかった。
誰よりも純粋な君が、誰よりも一番憎悪に満ちた目で私を見ている。
「前々からお前のことが気に食わなかった。俺のいた国がどんな状況であったかも知らずに、のうのうと穏やかに生きていたお前も、この国も!!」
無茶苦茶に剣を振り回して君は私を殺そうとする。けれど、そんな無茶苦茶な剣技に片割れだった私に敵うわけがない。
「残念だよ。この手で君を殺さないといけないことが」
容易く懐に潜り込んで、腹部に剣を深く突き立てる。君の口からごぽり、と血の塊が吐き出され、その手から剣が落ちた。
ずるりと崩れ落ちる身体を抱きとめる。
「………気づいてやれなくてごめん。私は君の片割れであるはずなのに、誰よりも君のことを理解してやれなかった」
「っ、はは……今更、だろ……」
乾いた笑みを浮かべ、光を失った虚な目がが私を映す。
「でも……あの時の夢は……叶えてよね……」
「この国を守ること?」
「あいつらは……お前のことを、殺すつもりだ。お前は、騎士なんだろ……騎士なら……国を……」
そこまでだった。ずるりと彼の頭が私に凭れ掛かる。その目はすでに閉じていた。私は亡骸を抱きしめた。
その目にはもう何も映らない。あの青い空も、私の顔も、何もかも。
「おやすみ。また会えるといいね」
亡骸を横たえて、その場を立ち去る。
荒れ果てた戦場で見上げた空は、あの時に見上げた空によく似ていた。
脳裏に過ぎるのは、あの時の君の笑顔と先の乾いた笑顔。
どちらも君で、私にとって大事なもの。
君の亡骸を越えて、私は前に進むよ。
11/9/2023, 12:32:59 PM