じりじりと、夏の太陽は地上を焼く
人間によって蓋をされた大地が
その熱を享受できる術はなく
微かな熱が伝わってくるだけ
蓋の隙間に根を貼った
名も無き植物の群れは
この辺りでは唯一のオアシス
時折やってくる人間と
彼らに従うオオカミの末裔
朝と夕
彼らがここに来る時間は
オアシスの深いところで
じっと息を潜めるよう
母親に言いつけられていた
でもボクは……
ほんのチョットの好奇心
オアシスの向こうの蓋の上
ビョコビョコ動く緑の塊
そっとそっと近づいて
姿勢は低く
息を殺して
そうっとそうっと……
そうっとそうっと……
そいつはびょんっと飛び跳ねて
網の隙間から逃げていく
ぴょんぴょんぴょんぴょん飛び跳ねて
キラキラ流れる水へポチャン
しょんぼり肩を落としていると
目の前に現れたヒラヒラのやつ
いつものやつより大きくて
ついつい追いかけ道を失う
お母さん
小さな声で呼んでみる
優しい声が聞こえない
みんな何処?
辺りをぐるりと見回してみても
兄弟の姿は見当たらない
お母さん
大きい声で呼んでみる
けれど優しい声はやっぱり聞こえない
お母さん
みんな
お母さん
みんな
喉が痛くなるまで呼び続けた
けれどみんなは見つからない
焼けた蓋がすごく熱くて
手も足もとても痛くて
もうこれ以上歩けない
喉も乾いたよ
お腹も空いたよ
ねぇお願い
誰か助けて
薄れる意識の中
最後に視界に映ったのは
蒼空に浮かんだ
大きな綿菓子
「何を見てるんだ?」
かけられた言葉にくるりと首を回す
ぼさぼさの毛並みのこの人間は
あの日ボクを助けてくれた
暫くは手や足が痛くて
歩けなかったし
何だかチクってするのとか
ジワって目が痛くなるやつとか
ちょっと苦いお水とか
飲まされたけど
今はそれはボクのためだったと知っている
今でも時々アワアワにされたり
チクッとされたりするけれど
その後にいっぱい撫でてくれるから
許してあげることにしてる
今のボクのおうちは
あのオアシスほど広くない
この人間と僕が寝る場所と
ご飯を食べる場所
運動をする場所と
アワアワになる場所
そしてココ
お空が見える場所
「あ〜、入道雲か。ひと雨来れば涼しくなるんだけどな。雷は勘弁して欲しいな」
この人間は蒼空の綿菓子を"にゅうどうぐも"って言う
お母さんはあれは綿菓子っていう食べ物で
ふわふわしていて甘いんだと教えてくれた
だから"にゅうどうぐも"じゃないって
いつも言っているけど
人間には伝わらないみたい
「うん?どうした?おやつか?」
一生懸命教えてあげてるんだけど
全然伝わらない
ほら、また美味しいやつ持ってきた
だから違うって……ん、美味しい
うん、いいね、すごく良いよ
美味しいのは大好きだよ
できれば今度は
綿菓子が食べてみたいな
あのお空に浮かんでいるのと
同じくらいの大きさのやつを
6/30/2024, 1:41:22 AM