「来るべき冬に備えて衣替えを決行します…!」
寒がりな君が羽毛布団とフリースのシーツを持って宣言した。暖かな太陽が出ているうちに冬物を干し、その間にベッドカバーをふたりで引っ張って整える。手触りはふんわりして贅沢な、毛の長い猫を撫でているようだ。
「新しいやつ?」
「うん、布団蹴飛ばしてもシーツでくるめば暖かいかなって。猫ちゃんみたいでしょ」
寒いと熱を求めて無意識に君がよってくる。それも猫みたいに。それが可愛くてしばらく眺めている時もあるけれど。
「たぶん、君が布団を蹴たくった瞬間に俺が気付くから心配いらないよ」
「あなたがいない時の話」
「じゃあシーツの猫ちゃんに頼んでおこう」
太陽を目一杯吸収した俺と君の冬服を取り込んだ。お揃いのセーターを丹念に確認し整えた君の顔が明るくなる。
「虫食いも穴あきもなし!」
「よかった。今年もたくさん着ようね」
ニコニコと引き出しに畳んで入れて、冬には君のトレードマークとなるコートを部屋へ戻せば衣替えは終わるはずだった。
「さて、問題です」
「どうぞ?」
じゃ、じゃん!とコートを着た君がベランダで両腕を広げた。
「去年と違うところはどこでしょう?」
顎にゆびを添えて君のコートを観察する。
「間違い探し?実は新品とか?」
「ううん、同じ」
「ちょっと背が伸びたとか?」
「健康診断は変わりなく…」
少し余ると言っていた袖も確かにそのままで一回ほど折ってある。
「ヒント」
「今さっき気付いてショックなこと」
「えぇ…?」
「答え…カビ」
「あちゃー…」
「クリーニングにも出したし大丈夫だと思ったんだけどな。お部屋の湿気に負けてたみたい」
いそいそと脱いで項垂れる。「明日冷えるって言うから着ようと思ったのに…」今から探しに行っても満足な買い物はできそうにない。
「暖かければいいの?」
「うん」
クローゼットを開けて自分にはもう小さいジャケットを君に羽織らせた。ぱちくりと瞬いている。服に着られているがそれもまたアクセントと言えばお洒落の上級テクニックのように思える。
「いいんじゃないかな。流行りのオーバーサイズってことで」
俺が袖を通せば足りない布も君にはまだまだ余るらしい。手首が見えるまでくるくる折って見つけた手を掴んで。
「明日の飲み会に着て欲しいな。男避けも兼ねて。ね?」
10/23/2023, 3:30:30 AM