わをん

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『踊るように』

うちの犬が若い頃は元気の塊だった。散歩の時にはリードをグイグイ引っ張り、よその犬には喧嘩腰になり、それはいけないとしつけを開始してからは多少落ち着き、ドッグランにも連れていけるようになった。
特に好きだったのは投げたフリスビーを取って帰って来る遊び。フリスビーを空中でキャッチする姿はとても躍動的で、脳裏には活きの良いカツオが一本釣りされるイメージが思い浮かんでいたけれど本人は知る由もなく、ぶんぶんとしっぽを振ってはもう一回投げて、とキラキラした目でねだっていた。一本釣りは毎回大漁だった。
年老いてからは足腰が立たなくなり、大好きなフリスビー遊びもできなくなった。夜鳴きや徘徊などの痴呆症状の介護を経て、ある朝にふつりと糸が切れるように亡くなった。懸命な最期だった。
荼毘に付した日の夜の夢に、犬は若かりし頃の姿でフリスビーを咥えて現れた。あたりは芝生の広がるドッグランで、周りには見知った犬たちもいる。随分と長い間投げていなかったフリスビーは緩い放物線を描いて遠くへと飛んでいき、その一点を目指して全速力で駆けていった犬は今までで一番高く、踊るように跳んでフリスビーを見事にキャッチした。
ぶんぶんとしっぽを振った犬はもう戻っては来ない。それがわかっていたので私は力の限りに手を振った。見知った犬たちとともに遠くへ行く犬に向かっていつまでも手を振り続けていた。

9/8/2024, 1:12:01 AM