れもねーど

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「形の無いものを、大切にするんだよぉ」
これが、おばあちゃんの口癖だった。最初は何を言っているのか、よくわからなかった。
形のないものなんて、どうやって大切にするんだろう。手で持ったり、箱にしまったりできないのに、大切に扱うなんて無理だ。
おばあちゃんの言うことは難しいんだなぁ、なんて思うだけだったし、特に考えようとも思わなかった。

...それからしばらくして。おばあちゃんはもう80歳になっていた。おばあちゃんが認知症になった。ボケがすすんで、介護が必要になった。
正直、最初はショックだった。大好きだったおばあちゃんが、私のことを忘れちゃって。みんなのことを忘れちゃって。
しっかりものだったおばあちゃんが、他の人に注意ばっかされるようになって。わからないことが増えていって。なくしものも増えて。
だからこそ、頑張って介護した。毎日朝一番に起きて、おばあちゃんの着替えを用意して、オムツを用意して。時間になったら起こして、トイレにつれていって。ご飯を食べさせて、口を拭いてあげて、食器の片付けをして。洗濯をして、干してあげて.....。....最初は、頑張ってたんだよ?でも...疲れちゃって。
次第に起きるのが遅くなって、おばあちゃんを起こさなくなって。食べさせるのもめんどくさくて。洗濯も、やめちゃって、全部お母さんに任せっきりになっちゃって。
...そしたら、お母さんは頑張りすぎて倒れちゃって。お父さんは仕事があるって言って家に帰っちゃって。
みんな、どんどん壊れていって。私だけが健康で、私だけが苦しんでなくて。悔しくて、悔しくて...でも、やっぱりやりたくなくて...

結局、堂々巡り。

...お母さんは結局回復して、また忙しく介護を続けた。お母さんがせっせと介護をしているようすをただぼーっと見るだけの日々。なんでだろう。最初は手伝って、と言っていたお母さんも、いつの間にかそういうことを言わなくなった。一人で抱え込むようになって、夜に静かに泣いていることもあった。...でも、やっぱやりたくなくて。介護しなきゃいけない人がおばあちゃんだって、認めたくなくて。

9/24/2024, 11:33:01 AM