星空を見上げる。そうすれば、地上のどんな苦しみも、どんな悲しみだって、癒やしてくれる。ぼくはそう信じていた。
行方不明になっていた、友達のお父さんが死んだ。彼の乗る船が北の海に沈んだのだ。ぼくはそれを、新聞の片隅の小さな記事で知った。
友人の家は、お父さんが行方不明になってからというもの、目に見えて生活が苦しくなっていた。友人は病気がちのお母さんに代わって、学校の合間に朝も夜も働かなくてはならなくなった。当然学校の勉強にも身が入らず、かつては誰より秀才だったことも、彼自身、忘れてしまっているようだった。彼は、いつかお父さんが帰ってくる、という微かな希望を頑なに信じた。彼の弱りきった繊細な心で、この不幸せな現実を生きていくためには、そうするしかなかったのだろう。
あの新聞をぼくの家に届けたのは友人だった。彼は朝早くから新聞配りの仕事もしていた。
だが、彼自身は父親の死を知らずにいた。彼には新聞を買うお金も、それを読む時間も無かったのだ!
ぼくは、この残酷な真実を友人に伝えることが出来なかった。苦し紛れに夜空を見上げたが、星はぼくを嘲笑うように、冷たく輝いているだけだった。
どうしようもない激情を胸にぼくは祈った。どうかあのかわいそうな友人に幸いを。彼の幸いのためならどんな犠牲をも厭わない、と。
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星祭りの夜、ぼくは銀河に置き去りにされ、かわりに死んだはずの彼のお父さんは、生きて家に帰った。
友人がそれを幸いと思ってくれるなら、ぼくにとってはそれが幸いだった。
(星空)
7/6/2023, 6:58:23 AM